33才の主婦のことで。
いまだに生えてこない永久歯が1本あります。左の下の小臼歯がありません。以前から歯医者さんにはブリッジをするように言われてきました。インプラントはお金がかかりすぎるし、親知らずを移植するのはスペース的に無理なので。ブリッジは隣の歯を削らないといけないのですね?
できれば健康な歯を削ったりしたくないのですが、歯を削らなくてもいい方法はないでしょうか?

永久歯が生えてこない場合の障害について説明します。

まず、全体的問題について説明します。
奥歯の場合、最も噛むために必要な歯で、歯がない状態ではその部分では噛めていないということになります。たしか、患者さんの場合左奥歯であったと思いますが。

すなわち、反対がわに、全ての咀嚼を依存することになるか、もしくは、異常な噛み合わせ運動を無意識に行なうようになります。

その結果、生理的な異常な噛み合わせは、反対側の奥歯部分に必要以上の力をかけ、負担をかけることになります。
ある歯に必要以上の力がかかりますと。歯の根っこの周りの膜(歯根膜)に負担がかかり、慢性的な歯の痛みや、下顎骨(歯槽骨)にダメージを与え、やがては健康だった歯も弱くなり、歯槽骨の吸収が進み歯を失う原因になります。歯を支えている骨に過剰な力をかけると、骨は吸収され、なくなっていく性質があります。(咬合性外傷といいます)

さらに歯石の付着がありますと。歯周病を促進する結果となり、早期に歯を失う可能性があります。

無意識の噛み合わせ(臨床的生理咬合)においては、さらに片側の歯のない部分をかばう噛み合わせをするために、噛み合わせに関連する筋肉の疲労がおこり、連動するように脊柱起立筋群(肩こりにつながる筋肉) 腰筋にまで影響を与えます。なぜなら、これらに筋群は咀嚼筋を発端とする連続した筋群だからです。

結果、慢性的偏側的な肩こり、姿勢の悪さを誘発していきます。

さらに、顔面の噛む筋(咬筋、側頭筋)も、疲労していきます。これらの筋群が疲労をすると、慢性的偏頭痛を誘発します。
さらには、めまいを訴えるかもいます。ひどいケースでは左右の表情筋の発達にも影響を与えます。
時に、咀嚼の要である顎の関節に異常をきたし、いわゆる顎関節症を引き起こす、可能性もあります。

次に局部(狭い範囲)の影響です。

歯がない状態を長期間過ごすと。その欠損部分の両脇の歯が、不正な噛み合わせの力により傾いてきます。結果として、歯の垂直的な高さが低くなります。

それに対し、向かい合う歯(対合歯)は、伸びてきます。
最悪なことに、歯のない部分に対合する歯は、とことん伸びきり、反対側の歯茎に当たるまで伸び続けるために、噛み合わせがすれ違った感じになります。
この場合は、上の歯も伸びてくるし、下の欠損部位の両脇の歯も傾き、その当たりいったいはまったく役に立たなくなります。、実際、不便を感じて、ブリッジなり、入れ歯なりしてもらおうと歯医者に行ってもどうにもならない状態になります。
治療は難航します。上の歯は、伸びきって低くする必要がありますし、(手遅れになると動揺が激しく抜歯ケースもあります)下の欠損部分の両脇の歯は、傾斜してしてまったく用をなさず抜歯になることもあります。
入れ歯も出来ない、ブリッジも難しい。

したがって、不幸にも永久歯が生えてこないで、欠損になっている場合や、抜けっぱなしになっている場合は、出来る限りはやく、歯を入れて健康な噛み合わせを回復しないと、後になればなるほど治療も難しく、全ての歯を失う原因になっていきます。

次に修復の方法です。

生えてこない両脇の健康な歯を削らない方法であれば、今のところインプラントか入れ歯しかないです。

一般的には、一本の入れ歯と言うことになりますが。
その場合の長所は両脇の健全な歯を触らなくてよいということですが。
前提として両脇の歯が傾いていないことが条件になります。
もし、傾いてしまっていると、入れ歯をする場合でも一部削ったりしなければならないことがあります。

欠点は、異物感と審美性が悪いことです。一本の入れ歯の場合は、どうしてもプラスチック製の歯茎と人工歯、それと針金のような維持装置が両脇の歯に引っ掛けるようにします。

もう一つの方法は、ブリッジと呼ばれる方法で、両脇の歯を削ってかぶせをつくり、ダミーの歯を両脇の被せに溶接してしまう方法です。

一体感があり、取り外しをしなくてよいし、比較的、異物感がありませんし、審美的にも優れています。
但し両脇の歯は犠牲になります。

もし、私が患者さんの立場なら、ブリッジをしてもらうでしょう。2本の歯は多少犠牲になりますが、全体の歯や全身への波及は免れます。

とにかく、歯がないままにしていることが、将来、大きく生活の質を落としていくであろうことは、容易に予測できます。
はやく、修復され、健全な噛み合わせを獲得されることをお奨めします。

歯が生えてこない両脇の健全な歯を触りたく無いという気持はよくわかります。
しかし、その2本の歯は現在、ほとんど機能していないと思われます。その2本をかばうあまりに、近い将来全身への悪影響、すべての歯に対する悪影響を考えるとき、あまりにも、その代償は大きいような気がします。
そして、その場合、今かばっておられる両脇の2本の歯も、絶望的な情況になっていると思います。

健全な咀嚼が出来ない場合は、健全な消化が出来ないことになり、時間を経て間違いなく消化器系や全身的な影響が出てきます。

口は、重要な消化器であること、歯は、その為の重要な役割を果たしていること、どの歯にも違った役割があること。
異常な噛み合わせですごしていると、正常がわからないことを、認識してください。

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