口臭を引き起こす、口腔内の要因

A.異常繁殖した微生物が関連する、口腔内の要因

通常健康な人の口腔内には、およそ100種以上の細菌が常在しています。そして、定着する細菌の種類は年齢とともに変化していきます。
定着細菌の種類と数の、加齢による変化は、口腔内環境の変化・食生活の変化・内分泌系の変化によるものと考えられます。
しかし、以下に上げる条件下では悪性の細菌=微好気性細菌・嫌気性細菌(空気の少ない条件を好む細菌類)が過剰に増殖します。
結果として、これらの細菌による分解産物・代謝産物として、口臭の原因となる揮発性ガスが産成されます。

  1. 歯周病に関連したもの

    歯垢および歯石内部には、1グラムあたり10億から100億の歯周菌が存在します。
    さらに、電子顕微鏡レベルでの観察によれば、歯石を構築するペプチドグリカン構造に、多数のカンジダ(真菌)が介在していると言う報告があります。
    さらに、歯垢・歯石の存在する部分の歯肉溝において、慢性的びまん性炎症反応(細菌に抵抗して、免疫細胞を含む血清成分・浸出液・血液の漏出、および組織の壊死)が存在し、これらの炎症産物は、細菌類によって分解されることになり、口臭発生の原因物質となります。

  2. 口腔粘膜病変

    口臭を発生させるような疾患に関連する粘膜病変を見逃すと、その遠因である代謝異常や基礎疾患の前兆を見逃す事になります。時に、基礎疾患境界領域において、その症状が口腔粘膜の異変として現われる事があるので、粘膜の状態は、よく観察する必要があります。
    また、カンジダなどの真菌類の繁殖や、扁平苔鮮に罹患している状態では、真菌由来の口臭を引き起こすので、患者の訴えとともに、注意深い観察が必要です。
    口腔粘膜病変の発生は、広範囲な炎症や真菌などの定着のために炎症性に局部のpHが下がる可能性があり、唾液不足の状態(緊張時や、就寝中)では、唾液の恒常性の維持や自浄作用が低下し、各種微生物の増殖を促す環境を作ると思います。

    以下の表は私がよく見かける粘膜病変と類似病変です。

    腫瘍、血管腫、カンジダ感染症など 悪性・良性腫瘍との関連で、各種代謝異常から唾液由来・呼気性の口臭の要因になりうる。
    薄い黒色斑 メラニン色素斑によく似ている。アジソン(Addison)病があると、このような斑点が生じる。 アジソン病は、副腎皮質機能が低下した結果、皮膚や粘膜への着色を起こす疾患である。それに伴って起こる低血糖・低血圧由来の、唾液由来および呼気性口臭の原因になる

    よく似ているが、多発的に小型の黒色斑が口腔全域にある場合。その他の場所にも色素斑を認める場合は、Peutz-Jegher症候群を疑った方が良い。これは遺伝性疾患であるが消化管にポリポーシスを発生させる結果、イレウス、腹痛、消化器の異常をきたす為、強い呼気性口臭をもたらす。
    口腔扁平苔癬(へんぺいたいせん)
    白っぽいレース模様
    頬粘膜に、薄く白いレース状に見られたり、しばしば金属補綴物との接触部分に見られたり、頬粘膜を咬合時に挟み込む部分によく見られたりする。
    頬粘膜の奥の方や、不良な補綴物の歯肉との境目あたりにあったりして、小さいものでは見逃してしまうことも多い。
    特に、保険での補綴物(12%金含有パラジウム合金)に相関して発生していることが多い・・・この場合は、W型アレルギー(遅延型アレルギー)・金属アレルギーの疑いがある。

    真菌が関与している場合は、口腔内が熱い感じとか、乾燥感の訴えがある。
    口腔内のこのような訴えがあり、かつ口臭がきつい場合、これを疑う必要がある。
    カンジダ症
    白っぽいレース模様
    口腔扁平苔癬とよく似た感じであるが、どちらかと言うと、偽膜のような膜状の事が多い。色調も、より白っぽい。

    多くは、頑固な舌苔と見間違う、慢性肥厚性舌カンジダ症(程度によっては視診に於いて舌苔と区別がつかない)。

    自覚症状として、口腔内乾燥感と灼熱感、ヒリヒリとした感じなどがある。
    正確な診断のために、私は組織培養と定量検査を行います。
    アフター性口内炎 アフタは、一時的免疫応答の低下(風邪をひいた・疲労など)や、口腔衛生状態の悪化・ビタミン不足などで起こる事が多い。

    おおむね、痛みのために口腔内のブラッシング不良により、口腔内環境の劣悪状態が見られる。
    アフターが多発するアフター性口内炎では注意が必要で、ウイルス性感染を疑う必要がある。

    これらの、粘膜疾患は、口腔以外の遠因に連動して起こることも多いので、全身状態の観察も必要です

  3. 舌の状態に関連したもの
    舌に関しては、別の項で詳しく解説しています。
    舌の形状 口腔内に対して、分厚すぎる、あるいは大きすぎる、という、先天的あるいは病的肥大。
    口腔内容積が小さくなり、自浄性が悪くなるため、口腔衛生環境の悪化を招き、口臭の原因になります。
    舌の粘膜疾患 アフター性口内炎では、痛みのために清掃性が悪くなったり、アフター性口内炎が起こる要因のために、口臭がきつくなります。
    又、前癌病変である、白板症などでは、その上に舌苔が付着したり、色素沈着が起こったりし、口臭がします。
    そのほかにも、舌に見られる粘膜疾患は多くあり、いずれも口臭との因果関係があります。
    過剰な舌苔 舌の表面に付着する過剰な舌苔は、舌粘膜の新陳代謝による上皮細胞や食物残渣、口腔内微生物の定着などが本体である為に、過剰に付着すると、口臭の原因になります。

  4. 唾液の性状
    量的問題 いかに、口腔内に細菌学的問題や、構造上の問題がないとしても、量が不足すると、口臭が強くなります。

    正常な人でも、生理的唾液量が減少する結果、口腔内乾燥が発生し、唾液中の揮発成分が気化し、口臭が強くなります。

    起床時口臭、緊張時口臭は、唾液不足から来る一時的口腔内乾燥によってもたらされます。
    唾液は、食事時は消化活動の一環としてとして当然分泌されますが、食事以外の時間も、絶えず分泌されています。それによって口腔内の乾燥を防ぎ、唾液の持つ緩衝作用によって、常に口腔内環境を一定に保ち、また殺菌作用により、口腔内の細菌の異常増殖を防ぐなど、自浄作用に大きく関与しています。

    正常な人の、1日あたりの唾液分泌総量は 1.5リットルくらいになります。
    この唾液分泌能力に対し、基礎疾患、生活習慣等による、舌をはじめとする口腔内機能の低下が起こると、口臭がきつくなります。

    口腔内に何ら問題がなくても、持続的緊張(ストレス)があったり、精神的にくよくよするなどの要因があれば、自律神経によって支配される唾液分泌機能は著しく乱れ、ちょうど、健康な人の緊張時口臭が持続する状態になり、1日中口臭がする事があります。したがって、心理的緊張要因は、口臭抑制に関して最も注目すべきポイントです。
    しかしこれも、自律的唾液分泌促進訓練、舌機能訓練など等の自律訓練法で解決します。
    唾液に含まれる不良組織片や食物残渣、血液など。 口臭の強い人の唾液性状には、しばしば歯周炎などの炎症由来の出血に伴う血液・浸出液。
    不良上皮細胞・食物残渣の沈澱が観察されます。

    これらは、口腔内微生物の各種酵素・唾液内の酵素によって分解発酵を受け口臭を強くします。
    pH(酸性度・アルカリ性度) 健康な唾液は、食事直後を除き、通常は中性に保たれています。
    口腔内の広範囲な炎症により、酸性に傾いた状態や、逆にアルカリ性に傾いた状態では、口腔内の唾液の持つ殺菌作用や自浄作用がうまく働きません。

    これは、正常な口腔内常在細菌叢(いつもいてくれる、細菌の集団)が変化するためです。
    この様な状態では、口腔衛生状態が悪化し口臭が強くなります。

    基礎疾患、代謝異常、ビタミン不足、長期に渡る薬物の連用、口腔内の慢性疾患(歯周病や、広範囲の虫歯の放置など)、また、洗口液の乱用によっても起こります。

B.口腔内の構造的要因

不正な親知らず 親知らずが正常な向きに正しく生えていて、正しく噛み合っている場合は問題ないのですが、たとえば下の親知らずが歯茎から半分見えていて、歯茎がかぶった状態になっているケース。
この場合は、たいがい、上の親知らずは上顎結節(上あごの端)から、ほっぺた側に、ゆがんで(転移)生えてきています。

そうすると、下の親知らず周辺の組織は少なからず炎症を抱え、特に問題は、上の親知らずで、常に、ほっぺたの内側と歯が密着した状態となり、親知らずの奥は磨けない状態になっています。
この部分は、不潔域(細菌学的に、どんなに努力しても、クリーンにならない空間)を作り出します。
しばしば、この親知らずの奥には、食物残渣を挟み込み、取れない状態が発生します。

この様な場合は、当然いくら歯を磨いたとしても、口臭は強くなります。
特に食事の後しばらくたってから、これらの食物残渣が発酵して来たり、あるいは微生物によって分解されて、口臭を引き起こして行きます。
歯並びの悪さ 親知らずが中途半端に生えたケースで良く見られますが、歯がまっすぐ立っていなくて、舌側に傾斜しているケース。
特に奥歯でよく見うけられます。

この様な場合、傾斜した内側のアンダーカットな部分に、舌の側方(舌の横の辺)が常にもぐりこんだ状態になり、その部分の清掃性が極端に悪くなります。
しかも、その部分に被せがあると、歯垢や食物残渣の吸着が起こっていて、食後の遅延的(食後、しばらくたってから発生する)な口臭の基になります。

この様な歯列不正は、通常は矯正治療の対象とならない事が多いのですが、歯冠形態を修正するなどの手段により、正しい噛み合せを確立すれば、改善されます。

乱杭歯などの歯列不正では、口腔内衛生の保持が難しく、歯垢や食物残渣の付着停滞の原因になります。
最終治療として、歯列矯正により改善されます。

又、開咬といって、歯列の不正により、どうしても口を閉じる事が出来ない場合、恒常的な口腔内乾燥を引き起こし、口臭の原因になります。
たくさんのアマルガム充填
種類の違う金属補綴物による修復がたくさんある場合
最近、アマルガム(水銀系合金)とアトピーとの間に、相関性のあることが注目されています。
アトピーや、アレルギー傾向のある方には、アマルガムは何らかの影響を与えているのではないかと考えています。
つまり、局所の遅延的アレルギーが、歯茎や、口腔内粘膜における血管透過性に影響を与えている可能性。

また、周辺細胞に含まれるマストセル(肥満細胞)を刺激している可能性。
いずれにしても、自臭症患者さんでは、口腔内のたくさんのアマルガム修復は、自覚的口臭の一因ではないかと考えています。

又、種類の違う金属の補綴物(被せ)や、大量の金属補綴物の存在は、口腔内に電位差が発生したり、ガルバニー電流の発生の可能性があります。良く、手入れされた人でも、このような補綴物の歯間部下側には、多くの吸着した食物残渣、歯垢が観察されます。
このような場合では、補綴物の素材を、電位的に安定した金、またはそのような心配の無いセラミックスなどに交換する必要を認めるケースがあります。
不適切な補綴物 歯周病による歯肉の退縮等により、歯と補綴物との間に隙間のあるケースでは、いかにていねいにブラッシングしたとしても、そのような隙間には歯垢や食物残渣の付着や停滞が発生します。
口臭をコントロールできるようにになった時点で、このような不良補綴物は作り直すことが必要です。

又、設計の悪いブリッジも問題になります。
ブリッジの設計上で特に大切な事は、ダミー部分の設計が悪いと、ダミーと、歯茎のあいだに歯垢や、食物残渣が吸着したり停滞しやすく、自浄タイプへと設計を変更する、等の対策が必要です。
しばしば、ダミーの設計が悪いために、ダミー下の歯茎に裂傷や炎症を見かける事があります。

*ダミーとは・・・
ブリッジは、歯が無い場合に、主にその前後の歯(支台)を利用し、橋をかけるようにして、連続した被せを作るものですが、その構造の中で、元々歯が無かった部分を、ダミーと言います。


合っていない義歯も、口臭を発生させる最大の要因になります。義歯にも歯垢や歯石は付着します。
また、義歯と口腔粘膜の隙間には、広範囲な不潔域空間が作り出されます。

C.呼吸法や咀嚼癖等の悪習慣

口呼吸 会話時に起こる、生理的口呼吸。
会話時以外の、日常的呼吸を、主として口を介して呼吸してる場合は、口腔内乾燥を招き、口臭の原因になります。
咀嚼時の悪癖 口をあけたままの咀嚼は、咀嚼時に空気を口から飲みこみ、食後、げっぷや、胃の蠕動運動に関連した排気があるために、口臭を起こします。