歯磨きをし、同じような食生活をしていても、虫歯や歯槽膿漏(のうろう)になりやすい人とそうでない人がいる。その理由として、人によって歯の質や口の中にすむ菌の種類が違うことが知られているが、最近はだ液の効用が注目されている。
だ液には、酵素などの微量成分が多数含まれている。そのすべては解明されていないが、食物の残りを口腔(こうくう)から除去する洗浄作用のほか、抗菌作用もある。 虫歯は、口の中の細菌が糖から作る酸によってできる。だ液には、分かっているだけでも、リゾチームやペルオキシダーゼ、ラクトフェリンなど抗菌作用を持つ酵素などが含まれており、病原微生物の口腔内での繁殖を防いでいる。 一方、歯槽膿漏は、歯と歯茎の境目の粘膜が細菌に侵されて起きる。歯や粘膜を細菌から守るだ液の分泌が悪いと、虫歯や歯槽膿漏になりやすいし、口臭の原因にもなる。だ液がたまりやすい下の前歯が比較的、虫歯や歯槽膿漏になりにくいのもだ液の効果だ。 緊張が続くと、口の中が乾くことでも分かるように、だ液の分泌には精神的な影響が大きい。だ液は年を取るにつれ、分泌が悪くなるが、最近は30〜40代でもストレスのため、分泌の不足気味の人が増えている。 そこで、神奈川県秦野市の北原稔・秦野保健所保険福祉課長(歯科医)は、だ液の分泌をよくするため、舌の体操とだ液腺(せん)の刺激マッサージを提唱している。 北原課長は「だ液の分泌をよくするには、舌を十分に動かすこと。例えば、舌の先で歯の裏などあちこちを軽く突っつく。舌を出して口の周りをなめたり、上下左右に動かしてみるのも方法」と説明する。 だ液は耳の下からあごにかけての耳下腺や、あごから下の顎下(がくか)腺から分泌するため、その部分をマッサージして刺激を与えるのも効果があるという。これらの運動マッサージは、食前が望ましい。 一方、北大歯学部の谷宏教授は「だ液が減少する原因を取り除くことも大切」と強調する。例えば、鼻の通りの悪い子どもは口で息をする傾向があり、口の中が乾きやすくなる。高齢者は加齢による変化のほか、降圧剤などだ液が出にくくなる薬を飲んでいないかなどを調べる必要があるという。 谷教授は「だ液を出す運動も大切だが、普段からだ液がよく出るように歯ごたえのある物を食べることが大切だ」と食生活の見直しを呼びかけている。 デンティストりえちゃんの雑記帳 より転載(北海道新聞)1998.5.13 |