私は開業以来、「口臭」というものを口腔内病変のひとつとして捉え、ごく当たり前に治療対象として取り組んできました。
口腔は、胃や腸管と同じレベルの消化器系器官であると認識し、治療しています。
しかし、そのうちに、密かに「口臭」に悩んでいる潜在的な患者が、意外に多く存在することに気付きました。
口臭のうちでも、他人が感じる口臭で、しかも原因が口腔内にある場合は、必ず原因が把握できますから完治します。そして私は、完治させることに成功してきました。
やがて、従来の分類では「自臭症」患者として取り扱われたと思われる人に遭遇しました。自臭症は、その原因が精神科領域で取り扱う心因的要因であると定義されています。しかし、本当にそうなんでしょうか??
私自身の追跡調査によると、このような心因性とされる「自臭症」については、「口臭外来」はもとより、精神科受診によっても、その症状がほとんど改善していません。
私がそこで抱いた疑問は、精神科の先生の力量がないのか?又は、自臭症はもしかすると、精神科領域の病気ではないのでは?ということです。
こうして、自臭症の患者さんとの2人3脚で、試行錯誤しながら、あらためて口臭問題に取り組むすることになった訳です。そして、多くの自臭症患者について、実はその原因は心因性ではない、ということに気付くようになりました。
彼らは、確かに自分で臭気を感じているのです。それにもかかわらず、社会がそれを認めないことによって、彼らは、とても大きな心理的影響を受けます。ついには、社会への適応ができなくなり、自閉的になったり、あるいは心身症に陥るケースがあります。自分の感覚が確かに捉えている口臭が、他人からは訴えとして認められない。このことはすなわち、その人の人格さえも認めない、という結果になります。「自覚的口臭」が社会的にも医学的にも否定されてしまったとき、そして、そのことを、自分の人格を否定されたのと同じレベルで受けとめたとき、人間は誰でも容易に、生きていく自信を失うと思います。そのギリギリのところで自臭症患者が心身症に陥ったとしたら、そして、もし我々がそこに関わっていたとしたら、我々歯科医は、「心身症」患者を生産していることになるのではないでしょうか?
精神科でも治せない「自臭症」患者を精神的疾患患者として片づけ、期待されるべき治療を放棄するならば、我々口腔を預かる専門家としては努力が足りないのではないでしょうか?そうでない場合は、精神科の治療で治ることを学術的に証明しなければいけません。
我々口腔領域を扱う専門家は、目に見えない日陰で悩んでいる膨大な「自臭症」患者に対し、今すぐ完全治癒に至らないまでも、せめて、何らかの光明を与えて行く努力をする必要があると思います。
このホームページがきっかけとなって、基礎研究においても、臨床においても、「口臭」治療が進歩し、広がっていくことを祈ります。このホームページが少しでも、口臭で悩む皆さんや、真面目に口臭治療に取り組もうと思っている先生方の参考になれば幸いです。
99年11月10日
ほんだ歯科 本田俊一 |
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